釧路市鳥獣被害対策

(エゾシカ肉で町おこしを)の視察

 

2013年11月20日(水)

 

<視察先>

 

●北泉開発株式会社

●釧路市役所産業振興部産業推進室

 

 

2013年11月20日

野生のエゾシカを生きたまま捕獲し、一時牧場で養鹿(ヨウロク)してから、ジビエ肉として販売し、市民の食卓にまで浸透させることを目標に積極的に取組んでいる釧路市にある北泉開発株式会社と釧路市役所に活動状況の視察調査してきました。

 

愛知県でも近年、イノシシ・シカ等の野生鳥獣による農作物被害は深刻化し、愛知県においても年間約6億円の被害があり、大きな問題になっています。本県では年間約8000頭ものイノシシを捕獲して殺傷処理しているというのが現状で、その費用も莫大なものになっています。そんな状況の理想的な対策として愛知県は三河地方の野生のイノシシやシカの肉を『県産ジビエ』として家庭の食卓でも美味しく食べてもらう取組に力を入れています。

しかしまだまだ消費者に対する周知も広く行き渡っておらず、安定した流通システムも確立されていないのが現状です。
ぜひ、他県のいい取組を愛知県でも取り入れ、独自の方法で鳥獣被害の軽減とジビエの普及により一層の力を注いでいただきたいと思ってます。

 

以下に釧路市でエゾシカ肉の普及に取組んでる中心的な人物である北泉開発株式会社の統括本部長さんのインタビューと、釧路市役所の産業振興課のご担当の職員さんのご説明をまとめてみました。

 

 

現在の状況

 

・全国から視察に来ていただいている。静岡県富士宮市(市議会、環境委員会)、長野県(県議会)、高知など・・被害対策が多く、農林はない。環境系の委員会が多い。

(愛知では農林が多い)北海道も農政部は無関心。道庁の水産林務部は、最近被害対策に乗り題している。エゾシカ対策室は環境生活部に属している。今まで予算がない部であったが、「シカの日」では1億予算が出た。

 

「シカの日」(エゾシカ対策室主催)について

 

電通が受託をして、曽我部様としては釧路地区の「拠点」として動いた。(電通は支店がなかったため)地元企業が代理店として動いたため、釧路は参加店が多かった。

逆に電通の支店がある、旭川や函館は、参加店は少なかった。

札幌は参加店数が多いが、「シカの日一日だけ参加、シカ肉提供」の店舗が多い。

 

☆スライド説明

 

☆雄阿寒湖から見る風景

 

 

シカの食害で、一部が禿げている。

 観光地でありながら、ほとんどが立ち入り不可の地域である。自然が非常に守られている。一説には酸素の濃度が高いとも言われている。反面、エゾシカにとっては過ごしやすい場所である。エゾシカの、知床・日高・大雪に次ぐ四大生息地の一つである。

 

☆エゾシカとの歴史

 



アイヌ民族からみると、動物(熊・ふくろうなど)は神として崇める場合が多いが、シカは神として崇めていなかった。アイヌ語の「シカ」は獲物という意味。昔から良く食料として使われていた。鹿の付く地名が北海道は多い。松浦武四郎の「蝦夷日誌」1863年に書かれたものに「全山赤く見えたものはすべて鹿であった」という記述がある。かつてシカはものすごく多かった。

 

長野県の諏訪神社で出している「鹿食免」という免許を出している。農家には鉄砲を持たせ、鹿やイノシシを打たせていた。つまり、鹿を食べていた歴史は非常に長く、食べていない歴史はむしろ短い。

 

明治時代、新千歳空港付近に、北海道開拓使が運営するシカ肉工場があった。肉はアメリカに、皮はフランスに輸出していた。また、当時の清(中国)にも角を輸出していた。何故そんなことを行ったかというと、開拓団で来られた方々が、木を切って畑を耕し、収入を得るまで何年かかかる。そのつなぎの手段として鹿で生計を賄っていた。鹿を捕まえて外貨を獲得する、という方法が当時政府をあげて、奨励されていた。

 

ところが、鹿は一気に激減してしまう。何度かの豪雪(人間もかなり死んでいる)・乱獲によって・シカは絶滅の危機にさらされる。この間60年間禁猟となる。この間に家畜が入ってきて、テーブルミートからはすっかり忘れ去られてしまう。これが北海道におけるシカの歴史である。オオカミによる絶滅説をあげる人もいるが、オオカミはそんなに食べないので、人間が利用しなくなった事が、鹿の増加の一番の原因と考えられる

 

☆奈良・愛知の鹿と、エゾシカは違うのか?

 



全て日本鹿の亜種になる。14種のうち、日本には8種類存在する。

屋久島の鹿は、40㎏しかない。それぞれの違いの大きな特徴は、大きさである。同一亜種の場合は、ベルマンの法則に従い、北に向かうに従って大きくなる。エゾシカは最大である。エゾシカは100150㎏ある。

 

☆馬と牛とどちらが近いのか?

 

牛に近い。偶蹄目・胃が4つあり、牛に非常に近い。

外見は馬に近い。

 

☆シカの角について

 

オスにのみ生え、毎年生え変わる。角の分岐の数により、年齢がわかる。夏毛にはバンビのように斑点が生ずる。

立派な角によってオス鹿の強さが決まる。

 

☆シカの寿命は?

 

 

野生の場合、平均3~4歳である。たまに56歳の個体もいるが、まれである。

メスは、2歳から3回くらいは子供を産む。

最近は温暖化により死亡率が下がり、健康寿命が長くなっているのも、増加の一因とされている。


 

 

☆農作物の被害額の基準は?

 

農林被害額:農家の申告による。

 

「この作物がちゃんと成長していたらこれだけ食べられたのに、うちは○○万損しました」という自主申告による。中には面倒くさがって申告しない方もいる。

農業被害は、実際に出ている額よりもかなり高いと思われる。

 

林業被害額:植林したものが被害を受けても報告されない。次に植え替える時に始めて、被害額として報告される。それはおかしいということで、算定の方法も変わってきている。今になって林業被害額が増えてきたのは、カウントの方法が変わってきただけで、昔から被害は受けている。

 

総合的な被害額現在60億超と言われているが、天然木も含めると、何百億という額になるはずである。

 

☆個別被害について:牧草

 

鹿は前歯がないので、伸びた牧草は食べ辛い。新芽のような牧草のみをどんどん食べてしまうので、残った成長した牧草は、牛も食べ辛い。牧草は栄養価が高いので、酪農地帯とエゾシカの被害は一致している。(特に東部)

 

 

☆シカの個体数について(東部)    

☆余談:ししゃもについて(釧路市役所島田様)

 

北海道は昔から原料を安く買われ、本州で加工され高く売られている経緯がある。例えば辛子明太子のタラコ、馬刺しなどがそうである。

シシャモはむかわが有名であるが、実はむかわのシシャモは釧路産を使っている事が多い。そんな事から、釧路市役所では、釧路産シシャモをアピールする名刺を使っている。

 

☆森林のシカ被害調査および対策

 

前田一歩園(森林管理財団):阿寒湖のほとんどの面積を管理している。

前田一歩園が平成4年から5年間かけてシカが好むオヒョウ、ハルニレの木だけを対象に調査したところ、

96000本 4万㎥の地域において木が枯死していた。

 

 

 

☆前田一歩園の取組

曽我部様スライド資料より

 

・ネット巻き:

それを受けて、樹にネットを巻く対策が取られたが、対象となる木・面積が非常に多く、大事な木(この樹が枯死すると周りに重大な影響を与える)のみを対象に施している。

この取り組みは継続的に行われている。

 

・有害駆除:

阿寒湖は鳥獣保護区であるが、特別な許可をもらってハンターに依頼して駆除を行った。(5年間)

 

中止したのは、ハンターが駆除すると、その期間はシカが寄り付かなくなることと、観光地のそばで鉄砲の音がするのはいかがなものかと苦情が出た。前田一歩財団様自体も動物愛護的団体であるので、5年間で中断した。

 

・給餌:

シカは冬季に餌がなくなり、山から下りてきて樹の皮を食べる。そのため、給餌を行うと効果が出る。但し、鹿の個体数は減らないし、本来栄養不足で死ぬ個体も力を蓄えて死なない結果になってしまう。周辺の町村からは、「阿寒湖でシカを増やしている」と揶揄されたこともあって、給餌を行うからには駆除も行わないといけない事情が出てきた。

 

・罠による捕獲:

上記の経緯もあり、駆除のため「囲い罠」による捕獲が試された。専門家は「理論上無理だろう」との見解であったが、前田一歩財団の方は「シカを捕まえることはできる」と考えていた。ただ、「捕まえたシカをどうするか」という問題が出てきた。

それらの問題を、旧阿寒町が引き継いで、シカの生態捕獲・食肉への展開と続いていく。 

 

 

  

曽我部様スライド資料より

 

☆釧路市(旧阿寒町)が他地域に先駆けて行った事業

 

供給対策として

・囲い罠による生態捕獲

 

・食肉を目的としたエゾシカ牧場

捕まえたエゾシカを養鹿する試みがなされた。

 

需要対策として

・エゾシカ肉を使用したご当地グルメ

平成15年、エゾシカバーガーをご当地グルメとして全国に先駆けて試みた。

・学校給食への採用

小さい町にかかわらず、16000食を提供した。

 

供給・需要対策のバランスが良いのが釧路市であった。

 

☆エゾシカバーガー開発の経緯

 

☆きっかけは町おこし・・地元食材へ

 

当時曽我部様は阿寒商工会議所青年会会長であった。

「町を元気にさせる」ために何ができるかいろいろ考えたところ、食を使った町おこしだろうということに行き着いた。記者の方に当時盛んに言われていた「スローフード」について聞き、地元の食材を探した。昔からこの地域のみでしか食べられていない食材などを探してみた。

阿寒湖の「ヒメマスごはん」、(炊くとヒメマスがピンクになり美しい)浜中の「チンチン鍋」(スケトウダラ)などを集めて地元でイベントを催したところ、好評であった。

但し、この地域でしか食べられないのにはそれぞれ理由があり、値段が高かったり量が少なかったり、ある一定の時期しか食材が採れなかったりする。また、「ツブの味噌汁」などは希少性が高く、町おこしには向かない。

もう一つの理由としては、地域のイベントにおいて、小さい子供があまり喜ばなかった事があげられる。魚介類は、子供にはあまり喜ばれない事がわかった。

 

上記の調査を鑑み、スローフードを提唱し、すでに現代化している家庭の食事を変えようとする試みは、難しい事がわかった。

 

それではと、子供達に人気のある大手ハンバーガー店を調査したところ、地元の食材は一切使われていないことが分かった

それでは、地元の食材を入れたハンバーガーをいっその事作ってみたらどうか、というのがエゾシカバーガー開発のきっかけである。

 

・地元食材を使った商品開発に着手

 

地元のシェフに、地元の食材を使った商品の開発を依頼した。ところが、「地元の食材を使った商品を、地元の人が買わないのではないか。(例えばサンマ、山菜など)地元の人は、珍しくもない地元の食材を食べない」とほとんどのシェフに言われてしまった。

 

そんな時、地元のANAクラウンホテル釧路 総料理長の楡金様が、地元の食材を使ったフランス料理を出していると聞いた。その際「この人しかいない!」と思い、訪ねて行った。今思うと、フランス料理のトップシェフに「ハンバーガーを作ってください」とお願いしに行ったのはかなり無謀な事であった。その際楡金様に言われた事は、「それでは食材はシカにしてください」だった。

 

その当時、曽我部様にとってシカなどとは、頭の片隅にもなかった。阿寒牛、白糠の羊、標茶町には良い牛がいるし、阿寒ポークなどを考えていた。しかし、その当時シカは町で有害駆除で2000頭近くのシカを駆除料金・ゴミ処理料を負担していた。原料は無料であるし、町も負担が軽減されるので、一石二鳥だと思った。

それで試作品を作っていただくことになった。

 

 

・エゾシカバーガーのデビュー

曽我部様スライド資料より

 

 

二回目のイベント(釧路の全日空ホテルで行った「スローフードフェスタ」、釧路商工会主催)で、開発したエゾシカバーガーの試作品を初めて出品した。根室管内も合同だったので、花咲のカニ、尾岱沼のシマエビ、羅臼のホッケ(いずれも本州では超一級のブランド品)も出品していた。しかしながら、積極的にPRした甲斐もあり、マスコミはエゾシカバーガーに注目していた。イベント前日は眠れなかったが、当日一番先に200食がなくなった。そのイベントは、試食は全て無料であった。

その際のアンケートでは、ほぼ9割の方が「おいしい」との評価だった。

 

曽我部様としては絶対的な確信があった。なぜなら、大手のハンバーガーチェーン店は、全部冷凍であるが、エゾシカバーガーは全日空ホテルが作った作り立て、しかもパンは当日朝焼いたもの、野菜は地元の新鮮なものであり、まずいわけがない!と思っていた。

ただ、「エゾシカ」という食材に対して手を出してくれるか、が不安だった。

 

その後何回も試食会を行ったが、一つだけルールを決めた。

「エゾシカ肉が嫌いだという人には、多少無理にでも勧める。ハンバーガーが嫌いだ、という人には絶対に勧めない。」(まずい、という評価が流布されてしまう)

 

・マーケティングでわかってきたこと・その後の戦略

 

このようなイベント・アンケートを繰り返すことによって、莫大な量のマーケティングができたエゾシカに関するマーケティングは、今までどこもやった事がなかった。

 

エゾシカに関して、「エゾシカを食べたことがある人・ない人」に分かれるが、食べたことのある人は、評価が「おいしい・おいしくない」と、両極端に分かれる。食材で今までこんなに両極端な意見が出るものはなかった。

その理由として、ほとんどが「他から(ハンターから)貰ったもの」という理由が挙げられる。ハンターさんは、身内には美味しい部位を分けるが、他の方にはかたい、美味しくない部位を譲ったりするため、「まずい」という評価につながっていることがわかってきた。

 

そのマーケティングの結果が出たことにより、次の戦略をうつ戦略が見えてきた。これらのマーケティングの積み重ねは、自分達の財産だと思っている。

 

 

 

・マスコミへの積極的な働きかけ~全国的に有名に

 

これらの努力が実り、最近ではみのもんたの朝ズバや、モコズキッチンなど、TVほぼ全局の番組に取り上げられ、積極的に出るようにした。Yahooのトップページにも二回写真付きで出たことがある。

 

・苦情への対処~丁寧に説明を

 

ただ、全国の動物愛護団体から、苦情が来るようになった。

その結果、全日空ホテルは発売を辞めることになった。

ホテルは本社、曽我部様の自宅、商工会にも苦情の電話が来た。その際「北海道の現状、どうして駆除が必要なのか、食用が有効活用になっていることを、丁寧に説明してください」とお願いした。

苦情は全日空ホテルと釧路商工会に来た。苦情が収束するまで1年位かかった。

今はシカは世界的にみると高級食材であり、北海道では食害になっている、ということが周知されてきており、苦情はほとんどなくなった。

 

 

 

曽我部様スライド資料より

 

 

☆阿寒町エゾシカ研究会の発足

 

・発足のきっかけ~原料不足

 

当時行政は、積極的に援助してくれた。当時北海道としても有害駆除をしており、「駆除した個体を一手に引き受けてほしい」との申し出があった。

阿寒町の業者さんに引き受けをお願いしたところ、「個体の状態が酷く、使い物にならない」とのことだった。駆除する側は食肉になることは意識しておらず、とても使える状態ではなかったとの事だった。

 

せっかくマスコミにも取り上げられ、話題にもなっているのに、原料がないと製造が出来ない。どうしようかと商工会で協議した際、「地元のハンター、猟友会にお願いしよう」ということになった。

その際、曽我部様が一番自分が功績だと思えるのは、町が一体となって取り組む「阿寒町エゾシカ研究会」を作ったことだとの事である。この町を活性化しようとしてやっている事なので、風上から風下まで一本化する必要があった。風上は猟友会、前田一歩財団、風下は商工会で、真ん中は自分達(曽我部様)である。これらが一本化して取り組もうとして作ったのが、研究会である。

猟友会に駆除をお願いするだけでは、「お願いされてやっている」という意識から出ることはない。自分たちは町の活性化のためにやっているのだから、「お願いしてやっていただく」という考えはおかしい。全員で取り組む、という体制にできないか、という考えから、研究会を立ち上げた。

 

研究会があったため、例えばハンターさんたちも当事者意識が生まれ、「町の活性化」に貢献している、自分たちが撃った肉は、ちゃんと地元が消費してくれている、という意識が生まれた。

 

・ジビエ関連事業を考えている方へのアドバイス

 

失敗している所を見ると、どこかが足りない事がわかる。

 

例えば、補助を受けて食肉の処理場を作るが、原料が入ってこない。もしくは、原料が入ってきても、売り先がない、などの例が見られた。(鳥獣被害防止特措法などにより、補助金が出るため、すぐ処理場を作ってしまうため

釧路市の場合は、シカを捕獲して、加工までできる。そこから先が出来ない!という場合は、組合に任せて、組合が買い取り、売り先を確保する等、町が一体化して取り組んでいる事により、補い合って進めてこられた。

 

特に本州でやる場合に気を付けたほうが良いことは、「シカがジビエだから流行っている」と思って始めても、原料が入ってこないことで失敗する事例が多々見られるとの事であった。シカ肉が一般化することにより、以前よりもはるかに高い衛生レベルも求められる

 

・食肉原料を仕入れる際の厳しい制約

 

スライド左側部分にあたる、許可ハンターによる一般狩猟の部分:

本州から来たハンターさんからは、食肉を買い付けていない。

一般のハンターさんには食肉にするためという意識が少ない。また、運び込まれたシカが生きている時に弱っていたか、病気であるかということは、買い付ける側としては、判断できない。信頼関係も鑑み、食の安全のために、より厳しいルールを設けることにした。

 


 

☆エゾシカの処理過程

 

曽我部様スライド資料より

 

・北泉開発の画期的な取り組み

 

スライド右側部分:

1月~3月の期間においては、山・森において囲い罠を用いてシカの生体を捕獲、牧場にてしばらく養鹿し、食肉に加工するところは、全国で初めて行った


 

・囲い罠の工夫    

 

 

曽我部様スライド資料より

 

囲い罠にシカが入ったのをカメラで確認し、扉を閉める。そのシカを仕分けスペースに追い込んで捕える。最初のうちは、追い込んだオス鹿が暴れて、他のメス鹿を殺してしまったりした。また、オス鹿が暴れて、人間が危険にさらされることもあり、獰猛な個体は横から逃がす扉を設けるなど、試行錯誤の上、今の罠の形態が生まれた。以前は現地で毎回建設していたが、現在はトラックで持っていて組み立てる、労力を省いた形となった。

この罠は組合と前田一歩財団さんの知恵を結集した結果であり、貴重な知的財産だと思っている。

 

北海道の鳥獣保護区に罠を仕掛けることにより、比較的容易にシカをとらえる事が可能となっている。以前住宅地のすぐ近くで仕掛けたことがあったが、とらえる事が出来た。今年は釧路湿原国立公園内で罠をしかける予定でいる。


 

・養鹿する際の苦労・工夫

 

捕えたシカを、良かれと思って広い檻に入れておくと、次の日に全頭死んでいる事があった。大学で検査してもらうと、診断は「捕獲時のストレス性ショック死」であった。シカは非常にストレスに弱い生き物で、養鹿を始めたころは、シカを死なせてしまったりした。輸送の際も、広い檻で動くと死んでしまうので、狭い檻にギッチリつめて載せ、暗くして運ぶなどの工夫が生まれた。今はほとんど死ぬことはなく、知床の牧場まで二時間半かけて輸送しても大丈夫になった。

 

今はシカがもっとも少ない時期で、次回出荷すると、ほとんど養鹿されている個体はいなくなる。ただ、翌年に牧場にくるシカのために10頭前後個体を残しておくと、新しいシカが安心するなど、ノウハウもついてきた。

 

餌を与える場合も、餌場にオスの角が入らないようにして、弱いメス・子供も十分餌が食べられるようにするなど、工夫を重ねている。

 

シカは慣れないといわれていたが、そんなことはなく、餌を与えると人になれる。また、耳票を全頭つけるようにしている。

 

一時シカは600頭超えていた。しかし、研究結果によると、シカは餌を与えても、そんなに太るわけではなく、味が良くなるわけではない。そうなると、味が良い1月~2月(捕獲したばかりの時)に、状態の良いものは出荷してしまうという方法に代わってきた。3月になって、痩せてきた個体を餌を与えて飼う様にしている。

 

・食肉としてのシカの管理~レベル分け・小売価格など

 

年取っているものなどは、加工品としては優秀である。缶詰の原料などにしている。

全ての個体が同じように扱われるわけではなく、個体の状態・年齢・大きさなどによって、人間が食べる用途・ペットフードなどに分けられている。肉は組合でS,A,Bとランク付けしている。Sは4歳以下ではあるが、年を取ったBレベルは個体が大きく、結果的には同じ位の利益が得られる。

34歳までが一番おいしいとされている。

逆に缶詰は、硬い肉でないとボロボロになってしまい、かえってうまくいかない。

 

シカ肉の単価は、上手に売ると、キロ2000円である。

60キロのメスから、20キロの肉しか取れない。上手に売った場合、4万くらいになる。

どうしても、売れる部位と売れない部位が出てきてしまう。

 

現在は6割は食肉の卸にだしており、そうなると単価はガクッと落ちる。

 

スーパーでは枝肉で買ってくれるので、価格設定は安くなる。小売価格としては、100g200円位で供給されている。

 

(参考価格:愛知のイノシシは、100g1000円位)

 

 

・後続業者へのアドバイス(その2)

 

ジビエとして認知させることは大事。そんなに儲かるものでもない。だが、一人でも多くの人に食べてもらうのが自分たちの役割だと思っている。

よく言われるのが、「人は123歳までに味覚が出来る」と言われている。それを知って、学校給食への導入を考えた。学校給食で食べた子供たちが大人になって、子供たちに食べさせる・・その位の長期計画でやるつもりだった。

学校給食を実現するためには、衛生が大変だった

 


 

・エゾシカは有効活用されているか?

曽我部様スライド資料より

 

エゾシカの捕獲数は、スライドの様に年々増加しているが、処理割合はほとんど増えていない。すなわち、ほとんどがまだゴミとして処理されている。

曽我部様は有効活用を前提とした捕獲でないと、ただゴミを増やすだけだと主張している。

 

曽我部様の会社では原料(シカ)が足りない状態なのに、一方自衛隊まで動員してシカを撃って駆除(廃棄)している。この状況を抜け出すには、まず食の安全性を確立するのが一番だと思った。


 

・食の安全性への取り組み

曽我部様スライド資料より

 

 

家畜とシカはどう違うか?

・適用される法律の数が違う!

 

家畜は、「と畜場法」と「食品衛生法」で守られている。

シカは、食品衛生法でしか守られていない。

食品衛生法は、肉になった後でしか守られていないので、シカが肉になる前に、個体が病気になっているかなどをチェックする機関がなかった。

チェックする機関がないと、シカ肉が安全かどうか、疑われても仕方がない。

 

と畜場法に匹敵するものをつくるべく、北海道ではエゾシカ協会、曽我部様が中心となり、エゾシカ衛生処理マニュアルを作成した。

 

現在認証を受けている施設は38施設ある。

 

 

曽我部様スライド資料より

 

一般的なハンターの施設はこの程度でしかない。

 

北泉開発では、銃弾の混入を防ぐための金属探知機・清潔な洗浄のための電解水製造器などを装備している。加工施設だけで2千万、機械で1千万位かかる。 

 

  

曽我部様スライド資料より

 

急速冷凍でないと、ホテル等はもう受け付けてくれない。

 

牧場等すべて含めて1億弱はかかっている。

 

エサ代のコストは年間50万~100万位かかる。

仮に1頭を1年間買うと1万かかるが、常にサイクルしているので、一頭月1000円弱、いかに早く出すか、を心掛けている。

 

しかし、どうせ少し残すので、観光牧場の設置、バーべキューが出来るレストランも計画している。

 

 

 

・他府県の衛生管理マニュアル

曽我部様スライド資料より


 

 

・製品のトレーサビリティ

曽我部様スライド資料より

 

何かあった時にこの作業をやっていないと、全量廃棄させられる。自分を守るためにも、トレサビリティは必要。

 

・牧場ものと、野生のものはどちらが美味しいか?

やわらかくて癖がないほうが良いなら牧場もの、

肉のしまり、味わいが良いなら野生のものが良い。


 

 

・釧路の地域としての取り組み

曽我部様スライド資料より

 

釧路栄養短期大学の先生方が、初めてエゾシカの栄養分析を行ってくれた。

 

釧路FMでは、3年間にわたってエゾシカの番組を続けてきてくれた。

 

・シカの日プロジェクトでは、他の地域よりはるかに多い店舗が協力した。

 

 

曽我部様スライド資料より

 

 

・小学校の栄養士さんが、保護者向けに食育便りでエゾシカの記事を取り上げてくれた。

 

 

曽我部様スライド資料より

 

 

 

 

 

曽我部様スライド資料より

 

 

・一回小学校で金属片が鹿肉から出た(養鹿されたもの)ことがあったが、マスコミが食べた子の保護者が、「こんなことでシカ肉給食を辞めるようになってほしくない」とかばってくれた。そのような経験もあり、全頭検査を実施するようになった。

 

・釧路市役所の島田様が、高校の栄養の時間でシカ肉の講義を行ったり、常にPRに努めている。

 

・シカ肉を使った料理(釧路もみじのみそ漬け)がT1グランプリ全道大会で優勝した。

曽我部様資料より

 

釧路の場合、勝手にどんどんやってくれる人が多くて有難い!とのこと。

 

スーパーにて、勝手にシカ肉のレシピを作って、シカ肉の横においてくれている方もいらっしゃるとの事。

 

上記のように、いろいろなところが全て絡み合い、携わってシカ肉事業が成り立っている。

また、水産業にように「どの魚にするか」と争いになることがなかった。また、シカ肉は農協さんなどに相手にされなかった、という事も影響が大きい。

・イノシシにシカのノウハウが適用できるか?

イノシシの方が鹿よりも飼育しやすく、高知でもイノシシを飼っているところがある。イノシシの方が単価が高いので、導入しやすいのではないか、と思うとのこと。

 

☆現状・将来への課題

ハンターの高齢化等により、原料が圧倒的に足りない!

個人的には、狩猟に頼るのは限界だと思う。罠に移行するべきだと思うとの事。

 

生協(COOPさっぽろ)さんは当初食の安全性で導入で難色を示していたが、消費者の方から「シカ肉を食べたい」との希望が上がり、入荷していただけるようになった経緯があ

る。

 

・生協との取り決めの衛生基準

曽我部様資料より

 

道内大学獣医が行う全頭検査など、非常に厳しい基準をクリアした肉のみ生協で扱ってもらえる。

 

小学校のシカ肉給食の導入など、多くの苦労があった。専門家からは「シカ肉が普及するまでは、シカ肉を食べた小学生が大人になるまで30年かかる」と言われていたが、実際は10年で普及できた。

 

 

 

・一般の方向けの「エゾシカ学習館」(11月オープン)前で曽我部様と撮影

エゾシカ学習館の解説ボード。

 

 

 

・工場の工程を、子供にもわかり易くボードで解説している。(エゾシカ学習館

・愛情のこもった、手作りのわかりやすい説明になっている。

 

 

・エゾシカ学習館配布資料曽我部様資料より

 

 

釧路市役所 

産業振興部産業推進室 

島田様のご説明より

 

 

2013年11月20日(水)

 

 

 

自給率が1%上がると、生産額が121億↑ 970人の雇用増という試算があり、やはり地産地消を進めようということになった。

 

 

 

学校給食で使っている肉は、全て養鹿の肉。

牧場の大きさは、札幌ドームくらいである。

生態捕獲の罠は英知の結集である。楕円形にしていると、シカが助走をつけて飛び越えることが出来ない工夫がある。この形になるまでかなりの試行錯誤があった         

 

また、シカの通り道を見つけて罠を仕掛けるにはかなりの経験が必要であり、最近では本州の神社からなどの問い合わせがある。

 

 

 

この5つがエゾシカ有効活用の大きな施策の柱である。

学校給食にエゾシカを導入したことで、子供から大人へ、普及効果があった。

 

 

 

イベントで、シカ肉を使った料理を提供している。平成23年度は阿寒やきとり丼を紹介した。

 

 

 

 

リバーサイドフェスタ2010というイベントで、エゾシカ肉のひき肉と地元産のほうれん草を使った、「946シカキーマカレー」を販売した。

地産地食くしろネットワークとハウス食品が共同で開発した「946キーマカレー」というレシピをシカ肉にアレンジしたものである。

シカ肉が苦手な方も、ひき肉とカレーなら食べやすいと好評で、用意していた80食を完売した。

このカレーは、「かもめ食堂」という飲食店のスタッフの方に、作ってもらったが、その時にシカ肉に興味を持っていただき、10月からシカの日に参加してもらっている。

 

 

釧路市では、元々10月くらいに「ふるさと給食」というのを行っていて、平成19年度からシカ肉のメニューを提供してもらっている。

開始当初は、PTAや学校の先生から問い合わせや疑問の声もあがっていたが、今では受け入れられており、釧路管内でも先進地と言える。

調理師さんがシカの調理に慣れていない、マニュアルにない、高いという事でいろいろ困難があった。

小学校の給食予算は一食194円、食肉はせいぜい100g99円の豚肉が精一杯であったが、調理師さんから「シカ肉を使いたい」という要望もあり、工夫してシカ肉が入って一食分高くなっても、他と平均してうまく予算が折合がつくようにした。

例えば、ミートボールなどは、シカ肉のみだとぱさぱさになってしまうので、鳥のささみを混ぜ、コストを下げることに成功した。

メニューを決めているのは栄養士さんなので、栄養士さんをいかに味方につけるか、が、決め手になったと思う。

 

 

シカと地元の阿寒ポークの合挽でコストを下げている。

値段の関係や、100%シカ肉だとパサパサ感がある。

 

 

 

学校給食便りの裏面が白かったため、スペースを借りて印刷させてもらった。親に対してのPRになった。

 

 

シカは鉄分が多く栄養が豊富、また何故シカを食べないといけないか、等の説明も併せて行った。

PTAへの配慮も十分行った結果、苦情等はなかった。

 

 

釧路のフレンチレストラン「イオマンテ舟崎シェフ」が高校の調理実習を行った。

エゾシカ肉の簡単ロースト地場野菜のフリカッセ・クミン風味

評判が良く、次回の実習も依頼が来ている。

料理人を目指している生徒が対象であり、使ってみたいとのコメントがうれしかった。

 

 

最初に、シカの日参加店舗に選んだのが「大衆食堂ジロー」であった。。

理由は2つ。市庁舎内の店舗ということで声をかけやすかったのと、関係機関の方が多く利用する食堂でもあったので、発信力が期待できること。

販売日の前日に、副市長など関係者による試食会を行い、それを新聞記事にしてもらったので、当日は、20分くらいで予定の56食を売り切った。

当初は、店側はシカ肉を使うことに抵抗があった。そこで、「まずは作ってみて食べてみてから判断して」と肉のサンプルを渡して作ってもらったのと、肉の安全性についてもきちんと説明を行った結果、メニューとして採用されたのではないかと考えている。

地産地消くしろネットワークでのお手伝いは、メニュー名の考案、ポップ作成、あと、食券も作った。

これは、カレーが来るまでの時間、裏面に書いてあるシカ肉の栄養成分を見てもらい、理解を深めてもらおうというのが目的だった。

シカ肉の栄養成分については、市の健康推進課と連携して行った。

現在では、ネックとひき肉を使っていて、人気のメニューとなっている。